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グソーは40そこそこのやもめ男だが、それ程老け込んでおらず、日に焼けた体はそれなりに逞しかったし、黒い髪に青い瞳がよく映える、精悍な顔つきだった。
井出達は砂漠の民のそれである。彼は宝石・鉱石を主とし、その他美術品や古文書を扱う行商人であるため、決まった住居を持たず、ある大きなオアシスの街の宿を拠点にし、ラクダに乗って各地を転々としているのだった。
その日も2ヶ月ぶりに、街の宿へ戻ったばかりだった。
グソーが拠点としているこの宿は、一人の快活な老婆が切り盛りしており、グソーのような故郷などあってないような行商人たちが多く利用していた。
皆殆どが顔なじみであり、それら全員の母親のような老婆の存在も手伝って、グソーにとっては家も当然の場所だった。
裏庭の掘っ立て小屋にラクダを繋ぎ、重い荷物を部屋に運び終えると、グソーはそのまま宿の裏口にある私書箱へ向かった。
住所を持たない行商人は、馴染みの宿に私書箱を持つことがほとんどであり、グソーもまた例外でない。
久し振りに開いた私書箱の中には、手紙が3通、小さな包みが1つ届いているだけだった。2通の手紙は馴染みの行商仲間からであり、包みは随分と前にこの街の男性に貸した古い本だった。
そしてもう1通は、この辺りの手紙には珍しく、真っ白な美しい封筒である。
グソーは砂に汚れた様子もないその封筒を訝しげに手に取ると、眉を顰めながら封を切った。そしてゆっくりと青い瞳で文面を検め、ははっと小さく笑いを漏らした。
これは、日々退屈を感じている諸君への招待状―――。
グソーは顎鬚を撫で付けながら、そんな出だしで始まったその手紙を読み終えると、しばらくその場で封筒をひっくり返したり、日に透かしてみたりしていたたが、ふいにニヤリと口の端を引き上げると、手紙を懐に仕舞い込んで、近いうちに船の手配をしなければと考えながら、その場を後にした。