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島についてからの二日目は、行き交う女性たちを遺跡外でうっとりと眺めたり、酒場に足を運んでみたり、かがり火の焚かれた広場に迷い込んだり、喫煙所に行ってみたりしているうちに過ぎ去ってしまい、グソーは肝心要の遺跡の探索を始められなかった。
夜に酒を飲みながらよし明日こそはと意気込んで、三日目の朝、グソーは日の昇るのとほぼ同時に目覚め、沢の水で顔を洗い口を濯ぎ、髪と髭と服装とを正したところで、水に映りこんだ自分の姿にヨシと呟き(言っておくが、グソーは特にナルシズムに浸る人間ではない。ただ、身嗜みを人並みに気にする程度の普通の男である。しかしもちろん、女性と会う前はより念入りに容姿をチェックし、気合を入れるが)、魔方陣に足を乗せ、遺跡の内部に降り立ったのだった。
遺跡の中はまるで夢か幻かのような光景で、それはつまり、「遺跡の中」という単語から創造しうる印象の、例えば砂色の壁だとか、そこを這い伸びる蔓草だとか、朽ちた石像の物言いたげな侘しい姿だの、そういったものからかけ離れた、青い空、さわさわと風にそよぐ草原、遠目に見える山脈など――まったく想定外の光景なのだった。
グソーは小さな花の咲くさわやかな草原を、極々上機嫌で散策しだした。所々には木々の姿も伺えて、至極穏やかな午前の時間である。まったくここはどこの国の穏やかな丘かと、グソーは草笛を鳴らし遊びながらゆっくりと歩いた。少し首を回せば、グソーと同じように探索を進める冒険者の姿がちらほら見える。その中でまた美しい女性の姿など見かけると、グソーはぴいと草笛を吹いたりしてそちらの気を引いてみようなどと思って遊び遊びしていたが、ふと聞こえた子供の声で、グソーはそれを一旦止めて、眉を顰めてそちらを見た。
信じられない光景である。緑色の逞しい肉体を持つ何かが、今にも捕って食おうかといった具合に、じりじりと木の陰に隠れた子供に迫っているではないか。
グソーが何とかしようと思い立つそれよりも一瞬早く、その緑色がグソーを振り返った。そうして、ああなんと奇天烈な生き物だろう…とグソーがぽかんと口を開ける間もなく、一直線にグソーめがけて突進してくるではないか。
グソーは頬を引きつらせ半笑いしながら、左腕の服を捲りあげるのだった。