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FalseIsland Eno.1620
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 author : 宝石商のグソー ×
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穏やかに続いていた平原をやがて抜けると、グソーは冒険者達の間で「風の流れ」と呼ばれているらしい魔法陣にたどり着いた。
人によって様々であろうが、その魔法陣はなるほどその名の通り、風の流れるような緩やかな曲線の幾何学模様で描かれているように見えた。そしてこの魔法陣も初日に見つけた二つの魔法陣と同じく、その模様を思い浮かべれば、遺跡外からでも瞬時にこの場へ移動できるらしい。グソーはしばらくその魔法陣の模様を眺め、そこにどんな魔力が働いているのかアレコレと想像を巡らせていたが、しばらくして腹が減っていた事に気が付いたので、いそいそと人の少ない壁際へ移動した。
思えば遺跡に入ってからの三日間、グソーはパンくずと水しか口にしていない。手持ちの食糧は一日ごとにぱさぱさと水分が抜けくたっていくそれら味気のないパンくずと、そこらに生えていたおいしい草(先日の歩行雑草の命の名残ともいえようものも含まれている)のみである。大の男がちびりちびりと掌を舐めるようにそれを食べる様はあまりにも惨めで寂しいものであるが、どうしようもない。グソーは情けないような顔をしながら今日の分のパンくずをちびりちびりと平らげると、念のためもう一度魔法陣の模様を確認してからその場を後にした。


その先の遺跡らしい石造りの床の続く道では、グソーは歩く石壁と戦闘となった。呪術を使うことをうっかり忘れていたグソーは、自分の腰の高さ程度のその石壁によしよしいい子だを繰り返し、石壁が戸惑う間に素手でもって打ち負かした。戦闘終了後、グソーは素手で石壁を殴ったために負傷した右手を、洗った時に水を払うような具合で振っていると、いつの間にか倒したはずの石壁がのっそりと起き上がり、グソーの方を向いて佇んでいることに気がついた。
「なんだい、まだやるのかい」眉を上げて軽く笑いながらグソーが言うと、石壁は「ひどいよ…」と漏らしながらもじもじとグソーを見上げたので(石壁の身体に目に当たるものは見当たらなかったがそのように見えたので)、グソーはおやと目を丸くしながら軽く首を傾げた。しかしそれ以上石壁も何も言わない様子であったので、グソーはふっと軽く笑いながら「ごめんよ」と言って踵を返したが、ふとちらりと振り向いてみれば石壁が慌てた様子でグソーの後を追ってきているではないか。グソーが再び立ち止まると、止まりきれなかったのか石壁はぼすんとグソーにぶつかりよろめいて、慌てた様子で後ずさった。
グソーはぷっと噴き出して、やがてあっはっはと大きく笑った。まごつく石壁を尻目に一頻り笑った後、グソーは当たり前のように石壁に向かって、「じゃあ、行こうか」と言ったのだった。


床の続く道を抜けると、グソーとその後に続く石壁はやがてなだらかな砂地へとたどり着いた。先ほどの魔法陣から流れてきたのだろうか、乾いた風が琥珀色の丘を滑り行けば、まるでスプーンで掬い取った冷菓子の表面のように、その稜線がさらさらと移り変わっていく。
グソーはその場でしばし立ち止まり、感嘆のため息をついた。遺跡の中だというのに、あの平原の風景に続きこの風景…砂漠と呼ぶにはまだ足りぬ砂地ではあるが、その風景は確かにグソーの慣れ親しんだ風景に似たものであった。久々に砂に触れた懐かしさのためか自然と肩の力が抜けたグソーは(グソーはもともと肩の力の抜けきったような男ではあるが)、この遺跡は全く不思議の遺跡だなどと感心しつつ、砂にさわさわと足を沈めながら歩き出した。

さてグソーは砂の土地から来た男であるから、砂の上を歩くのには慣れている。大抵の者は砂地を歩くと風の度に舞い上がる細かな砂が髪に絡むだの、繊維に入り込んで洗濯が大変だの言うのだが、グソーにとってそれらは久々に感じる懐かしい感触であるし、嫌いでもない。
むしろ四方から規則無く吹いてくる緩やかな風に、服の裾や身につけた布がはたはたと音を立てて揺れ肌を軽く叩くような感触、また細かな砂粒がぱしりと頬や手に乗る感触や、履物の合間から素足に触れる砂の感触が心地よく、グソーは至極上機嫌で砂地に足跡を残し続けていった。

その穏やかな道中、ふいにあからさまに嫌な感じのする低い唸り声が聞こえてきたので、グソーは青い瞳をすっと細めて立ち止まった。それから右手を左腕の袖に掛けながら辺りを伺うと、グソーは目先の砂の一部分が不自然に盛り上がっていることに気がついた。そうしてその不自然に盛り上がった砂の中から、グルルル…という低い唸りと共にゆっくりと這い出てきたのは、茶褐色の硬そうな鱗に身を包んだ、大振りで、爪の鋭い蜥蜴である。
こいつはイヤな感じだなあとグソーが肩をすくめるのを見た蜥蜴は、乾いた血のこびり付いたその牙を笑うようにむき出しにして、さあこれから食事の時間だとでも言うようにいっそう低く唸ったのだった。

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 author : 宝石商のグソー ×
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