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 author : 宝石商のグソー ×
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グソーが深い昏睡から目覚めた時には辺りはすっかり明るくなっており、倒れこんでいる自分のすぐ傍を冒険者たちが通り過ぎる音が聞こえた。薄く目を開くと、心配そうにこちらを覗き込んでいる石壁でグソーの視界はいっぱいになった。
まだふらつく意識を抑え込むように固く目を閉じながらグソーがのろのろと体を起こすと、グソーの頬や髭や衣服に遠慮なく貼りついている砂がパラパラと零れていった。ふと右腕に鋭い痛みが走る。見やれば数箇所に血が滲んでおり、それを見た瞬間、連鎖のように体中あちこちに鈍い痛みが走った。そこでグソーはようやっと、昨夜突如現れた巨大なハムスターにこれでもかというほど齧られまくり痛めつけられ、ついにその場に倒れた事を思い出した。

「また遺跡の外に飛ばされないだけ良かったか」と心配そうな石壁に語りかけながら、グソーは荷を改めた。どうやら盗賊などの手はついていないらしい様子に感謝しつつ、度数の高い蒸留酒を引き出して口に含むと、傷口に向けて噴きつけた。びりびりと傷口に沁みるのを情けない顔で我慢しながら、グソーは更に荷の中から薬草を磨り潰したものを蜜と練った軟膏を取り出し傷に塗りこみ、さらに沁みるのをさらに情けない涙目の顔で我慢しながら、清潔な布を取り出して引き裂いて器用に傷口に巻いていった。

取りあえずの手当てが済み、グソーはそこらじゅうの痛みに顔を引きつらせながら立ち上がると、やがて終わるだろう砂地の果てを眺めた。どうやら砂地が途切れたその先には、どうやら床の地帯が続いているらしい。やはりこの遺跡がどういう作りになっているのかさっぱり検討もつかなかったが、この不思議さにもいよいよ慣れてきているグソーはさほど気にせず、いつものようにのらりくらりと歩き出した。


床の一帯はどこかひやりとした空気が流れており、砂にまみれたグソーの体の熱を少しずつ冷ましていくようで、そのうちに傷の痛みも徐々に引いてきた。傷の具合が良くなってくると楽天家のグソーはもういつもの調子で、あの子と行くのに遺跡の外にどこか良い店を探さなくちゃならないなあ、しかし次に遺跡の外に出たらまずは医者に診てもらおう、げっ歯類は怖いからなあ。それから体をキレイにして、宿をとってぐっすり眠ろう。それから夜中に起き出して酒場に行って…などと他愛もないことを考えながら、一本に伸びる床地帯の探索をのんびりと進めていくのだった。

そうして歩を進めるうちに、グソーの行く先になにやら道を塞ぐ様にして立っている人影が見えてきた。怪訝に思いながらもグソーはそのまま歩いていくと、それはどうやら揃いの装いをした兵士であるらしい。そしてその脇には壁に気だるそうな青年が一人もたれかかっており、彼はグソーに気がつくとつまらなそうに「あ~…まぁた来たよ、ほら出番だ手駒。さっさとやっちゃって。」と言った。グソーはおや、と立ち止まる。
「しかし隊長…良いのですか?我々も早く先へ…」と返す兵士達を、「なに?逆らっちゃうの?この第14隊の隊長カリム君に逆らっちゃうの?」と、青年はジロリとその垂れた目で睨め付ける。仕方なしと言った具合で、兵士は眉間に皺を寄せながらもグソーに向き直り得物を構えた。
グソーはああ、と思わず声に出しながら頷いた。先日歩行雑草に襲われていた少年が言っていた「ショウタイ」とは、彼らのことに違いない。しかしどうにも穏やかにこの場を通してくれそうにない様子に、グソーもまた仕方なく左の袖に痛む右手をそっと掛けた。

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 author : 宝石商のグソー ×
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先日その牙と爪によってグソーを遺跡外へ弾き帰した牙蜥蜴が、低いうなり声を上げて砂の上にゆっくりと伏した。グソーはその場に尻餅をつくようにへたり込んで足を投げ出し、ぴくりともしなくなった牙蜥蜴を眺めながら大きな息をひとつついた。そのため息がつき終わるのと同時に、砂に埋もれるように倒れこんでいた石壁がゆっくりと起き上がる。心配そうにあたりを見回す石壁の頭(?)をポンポンと撫でながら、グソーは「お疲れさん。勝ったよ」とウインクして笑ってみせた。斯くしてグソーのリベンジマッチは、見事勝利を収めたのである。

一息ついたグソーはその場に足を投げ出したまま手を伸ばし、放り出されていた荷をずるずると引き寄せて水筒を出しその中身を呷った。ぷはっと水筒から口を離して大きく息を吐き出した後、口の端にこぼれたぬるい水を手の甲で拭いながら、グソーはようやくのろのろと立ち上がって牙蜥蜴の死骸にそっと近づいた。

牙蜥蜴の鱗のない白い腹にはグソーの呪術による幾つかの痣のようなものが浮かび上がり、また鱗の所々にはゴージャスな五寸釘が打ち込まれている。凄惨とまではいかないがやはり痛々しい生き物の死、それも自分の手によるものを目の前にして、グソーはそっと膝を折ると、目を閉じて祈りの言葉を紡いだ。
しかしグソーは様々なものが何かの死から生る恵みによって成り立っていることを知っていたし、それが自然なことだとも考えている。なので祈りの後に牙蜥蜴の半開きの口をこじ開けて、装飾や防具の良い素材になりそうな大きな牙を頂戴することを全く躊躇わなかった。

砂地はまだしばらく続いており、グソーは伸びをしながらその果てを見やる。様々な冒険者たちがグソーが目指す同じ方向へ進んでいくのを眺めながら、グソーは荷を担いで歩き出した。

 author : 宝石商のグソー ×
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穏やかに続いていた平原をやがて抜けると、グソーは冒険者達の間で「風の流れ」と呼ばれているらしい魔法陣にたどり着いた。
人によって様々であろうが、その魔法陣はなるほどその名の通り、風の流れるような緩やかな曲線の幾何学模様で描かれているように見えた。そしてこの魔法陣も初日に見つけた二つの魔法陣と同じく、その模様を思い浮かべれば、遺跡外からでも瞬時にこの場へ移動できるらしい。グソーはしばらくその魔法陣の模様を眺め、そこにどんな魔力が働いているのかアレコレと想像を巡らせていたが、しばらくして腹が減っていた事に気が付いたので、いそいそと人の少ない壁際へ移動した。
思えば遺跡に入ってからの三日間、グソーはパンくずと水しか口にしていない。手持ちの食糧は一日ごとにぱさぱさと水分が抜けくたっていくそれら味気のないパンくずと、そこらに生えていたおいしい草(先日の歩行雑草の命の名残ともいえようものも含まれている)のみである。大の男がちびりちびりと掌を舐めるようにそれを食べる様はあまりにも惨めで寂しいものであるが、どうしようもない。グソーは情けないような顔をしながら今日の分のパンくずをちびりちびりと平らげると、念のためもう一度魔法陣の模様を確認してからその場を後にした。


その先の遺跡らしい石造りの床の続く道では、グソーは歩く石壁と戦闘となった。呪術を使うことをうっかり忘れていたグソーは、自分の腰の高さ程度のその石壁によしよしいい子だを繰り返し、石壁が戸惑う間に素手でもって打ち負かした。戦闘終了後、グソーは素手で石壁を殴ったために負傷した右手を、洗った時に水を払うような具合で振っていると、いつの間にか倒したはずの石壁がのっそりと起き上がり、グソーの方を向いて佇んでいることに気がついた。
「なんだい、まだやるのかい」眉を上げて軽く笑いながらグソーが言うと、石壁は「ひどいよ…」と漏らしながらもじもじとグソーを見上げたので(石壁の身体に目に当たるものは見当たらなかったがそのように見えたので)、グソーはおやと目を丸くしながら軽く首を傾げた。しかしそれ以上石壁も何も言わない様子であったので、グソーはふっと軽く笑いながら「ごめんよ」と言って踵を返したが、ふとちらりと振り向いてみれば石壁が慌てた様子でグソーの後を追ってきているではないか。グソーが再び立ち止まると、止まりきれなかったのか石壁はぼすんとグソーにぶつかりよろめいて、慌てた様子で後ずさった。
グソーはぷっと噴き出して、やがてあっはっはと大きく笑った。まごつく石壁を尻目に一頻り笑った後、グソーは当たり前のように石壁に向かって、「じゃあ、行こうか」と言ったのだった。


床の続く道を抜けると、グソーとその後に続く石壁はやがてなだらかな砂地へとたどり着いた。先ほどの魔法陣から流れてきたのだろうか、乾いた風が琥珀色の丘を滑り行けば、まるでスプーンで掬い取った冷菓子の表面のように、その稜線がさらさらと移り変わっていく。
グソーはその場でしばし立ち止まり、感嘆のため息をついた。遺跡の中だというのに、あの平原の風景に続きこの風景…砂漠と呼ぶにはまだ足りぬ砂地ではあるが、その風景は確かにグソーの慣れ親しんだ風景に似たものであった。久々に砂に触れた懐かしさのためか自然と肩の力が抜けたグソーは(グソーはもともと肩の力の抜けきったような男ではあるが)、この遺跡は全く不思議の遺跡だなどと感心しつつ、砂にさわさわと足を沈めながら歩き出した。

さてグソーは砂の土地から来た男であるから、砂の上を歩くのには慣れている。大抵の者は砂地を歩くと風の度に舞い上がる細かな砂が髪に絡むだの、繊維に入り込んで洗濯が大変だの言うのだが、グソーにとってそれらは久々に感じる懐かしい感触であるし、嫌いでもない。
むしろ四方から規則無く吹いてくる緩やかな風に、服の裾や身につけた布がはたはたと音を立てて揺れ肌を軽く叩くような感触、また細かな砂粒がぱしりと頬や手に乗る感触や、履物の合間から素足に触れる砂の感触が心地よく、グソーは至極上機嫌で砂地に足跡を残し続けていった。

その穏やかな道中、ふいにあからさまに嫌な感じのする低い唸り声が聞こえてきたので、グソーは青い瞳をすっと細めて立ち止まった。それから右手を左腕の袖に掛けながら辺りを伺うと、グソーは目先の砂の一部分が不自然に盛り上がっていることに気がついた。そうしてその不自然に盛り上がった砂の中から、グルルル…という低い唸りと共にゆっくりと這い出てきたのは、茶褐色の硬そうな鱗に身を包んだ、大振りで、爪の鋭い蜥蜴である。
こいつはイヤな感じだなあとグソーが肩をすくめるのを見た蜥蜴は、乾いた血のこびり付いたその牙を笑うようにむき出しにして、さあこれから食事の時間だとでも言うようにいっそう低く唸ったのだった。

 author : 宝石商のグソー ×
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歩行雑草と呼ばれているらしいそれを呪術でもって打ち負かすと、グソーはひとつ息をつき、膝を曲げずに屈み、足元のおいしそうな草を拾い上げた。グソーはそれを元から落ちていたものだと願いたくあったが、どうやら歩行雑草から抜け落ちたものらしい。何にせよ食糧の確保が充分でない今であるし、栄養価が高そうなおいしい草を捨て置く理由もない。
やれやれと軽く肩をならすグソーの元に、木陰に回って隠れていた子供が駆け寄ってきた。子供はどうやら本に夢中になっていたのか、危険が去ったと踏むや否や、大事そうに抱えた本の内容を、グソーに向けて楽しそうに話し出した。グソーはしばらくうんうんと笑顔でそれを聞いていたのだが、一向に話が終わりそうにない。しばらくしたところでグソーが笑顔のまま軽く片方の眉をあげると、子供ははっとして、照れた様子で話を止めた。そして改めての礼を言うと、ここから真っ直ぐ行ったところにショウタイがいるので気をつけて、と言い残して去っていった。

グソーはそのショウタイの存在をとくに気にすることもなく、のんびりした様子で探索を再開した。歩を進めるうちに、いつしかグソーの足元は草原から遺跡らしい床に変わり、潜む魔物の気配も変わったようである。
遺跡らしい壁も現れて、腰掛けやすそうな段差も見える。グソーは休憩するのに具合の良さそうな一角を見つけると、肩に背負った荷を降ろし、腰元に下げていた山羊の胃袋で出来た水筒を呷った。口元にこぼれた水を刺青のなされた左手の甲で拭いあげると、水筒を戻しながらその場にどっかりと胡坐をかきかき座り込んだ。
グソーは下ろした荷を胡坐をかいた足の上に引き寄せて、その中から荒っぽくごつごつとした麻布の包みを取り出した。グソーは慣れた手つきでそれを広げると、中にはまたごつごつとした麻布の包みが無数に入っており、丁寧に包まれたその麻布を取り払うと、未加工の鉱石がにぶい光を覗かせた。5、6ツの包みを開けたところで大きな傷がないことを確認し、グソーは包みをまた荷に閉まった。
グソーは次に紅色の羅紗布に包まれた箱を取り出すと、右手を水と塩で軽く清めてから蓋を開けた。箱の中にはやはり紅色のベルベット地が山の連なりのように敷き詰められており、その谷にはひしめくように色とりどりの宝石が埋め込まれている。グソーはやはりそれらに新しい傷がついていないことを確認すると箱を閉じようとしたのだが、ふと視線を手元から外すと、グソーの方を見つめている者がいることに気づいて手を止めた。

一人は凛とした、厳粛な雰囲気の女性である。グソーはそのすらりとした肢体や烏羽色の長髪、近寄りがたいような美貌に見覚えがあった。遺跡外で行き交う女性達を眺めていた中でも特に印象深く、いつものように声をかけようとしたのだが、その厳粛流麗な姿に軽率に声をかけることが躊躇われ、そうこうしているうちに人込みに見失っていたのだった。
もう一人はグソーと同じか、それよりもう少し年を食った男性である。服装の視覚効果も合間ってストンと縦に細いような印象のグソーとは違い、着込んだ服の上からでもその筋肉の隆起が見て取れるがっしりと逞しい体型で、ゆるく纏めた長髪が小粋な雰囲気だった。
グソーは二人の客ににっこりと微笑むと、閉じかけた宝石箱の蓋を開きなおして二人のほうへ回して見せたのだった。

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島についてからの二日目は、行き交う女性たちを遺跡外でうっとりと眺めたり、酒場に足を運んでみたり、かがり火の焚かれた広場に迷い込んだり、喫煙所に行ってみたりしているうちに過ぎ去ってしまい、グソーは肝心要の遺跡の探索を始められなかった。
夜に酒を飲みながらよし明日こそはと意気込んで、三日目の朝、グソーは日の昇るのとほぼ同時に目覚め、沢の水で顔を洗い口を濯ぎ、髪と髭と服装とを正したところで、水に映りこんだ自分の姿にヨシと呟き(言っておくが、グソーは特にナルシズムに浸る人間ではない。ただ、身嗜みを人並みに気にする程度の普通の男である。しかしもちろん、女性と会う前はより念入りに容姿をチェックし、気合を入れるが)、魔方陣に足を乗せ、遺跡の内部に降り立ったのだった。

遺跡の中はまるで夢か幻かのような光景で、それはつまり、「遺跡の中」という単語から創造しうる印象の、例えば砂色の壁だとか、そこを這い伸びる蔓草だとか、朽ちた石像の物言いたげな侘しい姿だの、そういったものからかけ離れた、青い空、さわさわと風にそよぐ草原、遠目に見える山脈など――まったく想定外の光景なのだった。
グソーは小さな花の咲くさわやかな草原を、極々上機嫌で散策しだした。所々には木々の姿も伺えて、至極穏やかな午前の時間である。まったくここはどこの国の穏やかな丘かと、グソーは草笛を鳴らし遊びながらゆっくりと歩いた。少し首を回せば、グソーと同じように探索を進める冒険者の姿がちらほら見える。その中でまた美しい女性の姿など見かけると、グソーはぴいと草笛を吹いたりしてそちらの気を引いてみようなどと思って遊び遊びしていたが、ふと聞こえた子供の声で、グソーはそれを一旦止めて、眉を顰めてそちらを見た。

信じられない光景である。緑色の逞しい肉体を持つ何かが、今にも捕って食おうかといった具合に、じりじりと木の陰に隠れた子供に迫っているではないか。
グソーが何とかしようと思い立つそれよりも一瞬早く、その緑色がグソーを振り返った。そうして、ああなんと奇天烈な生き物だろう…とグソーがぽかんと口を開ける間もなく、一直線にグソーめがけて突進してくるではないか。
グソーは頬を引きつらせ半笑いしながら、左腕の服を捲りあげるのだった。

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